私が目指す接客

同僚のおじいちゃん薬剤師が「胃薬はこれです」の一言だけの接客で店の推奨品を販売していた。そのおじいちゃんは異業種から定年退職後に転職してきたばかりで、市販薬の知識も接客の経験もなかった。胃薬をお求めのお客様にはその商品を紹介するようにと、彼に教えたのは私だ。彼はそれをそのままお客様に伝えたのだ。「胃薬はこれです」と。そして、それで売れた。

その商品は消化剤・制酸剤・健胃生薬配合の総合胃薬で、食べすぎ・胸やけ・胃もたれなど、だいたいの胃のトラブルに対応できるものだったので、確かに「胃薬といえばこれ」と紹介して間違いのない商品だったし、パッケージにもその旨が分かりやすく表示されていた。おじいちゃん薬剤師はドラッグストア店員としてはペーペーの新人だったけど、そんなことはお客様が知る由もなく、年齢相応のベテランに見えていたはずだ。他の商品という選択肢を知らないが故の迷いのなさも説得力につながったことだろう。

この件は偶然すべてが上手くハマった感があるけれど、実際のところ、これで十分なんじゃないかと思う。お客様の求めに対して、適切な商品を選択して、それを提示する。もちろん知識の裏付けは必要だけど、余計な説明はいらない。客「◯◯がほしい」→店員「これをどうぞ」→客「ありがとう」。この極限まで効率化された流れが、接客販売の理想型のような気がする。