紫河車

紫河車(しかしゃ)という生薬の標本を見せてもらった。手のひらに乗るほどの大きさで、白っぽい、楕円体を半分に割ったような平たい形の塊だった。「これはヒト由来なんだけど、どこの臓器か分かる?」という講師からの質問に対して、ヒト由来などということがありえるのか? 臓器を使ってしまったら、そのヒトのカラダは大丈夫なのか? と疑問が頭の中で渦巻いたが、「胎盤」との答えに納得した。

ヒト胎盤の使用には感染症のリスクがあるため、現在日本では医療用医薬品としてヒト胎盤抽出物の注射剤が承認されているのみで、その他の一般用医薬品や健康食品には主にブタ由来の胎盤が使用されている。中国でもヒト胎盤の流通は法律で規制されているはずだが、その講師によると「そこらで普通に売っていて、さすがだと思った」とのことだ。

その講師はさらに日本でのエピソードとして「知り合いの女医さんが自分の出産時に医師に頼んで胎盤を採取し、その自分の胎盤を使って紫河車を作った」という興味深い話を聞かせてくれた。自家製紫河車である。ヒト胎盤は医薬品扱いだが、自分で作って自分で食べる分には法的な問題はないそうだ。その紫河車は女医さんに食べられ、その身となり還元されたのだろうか。もったいなくて食べられないような気もする。いずれにせよ、紫河車の秘めたる可能性に恐れいったものである。